2008年06月04日

崩壊寸前

1年と少し前から担当させていただいている方がいる。
地区外の包括から
「木下ちゃんでないと、このケースは無理。」
と、振ってこられたケースだった。
その時点で、「大物」と思った。


認知症には様々な症状・段階・進行具合がある。

利用者はアルツハイマーの診断を受けたばかりだった。
対外的には穏やかな方だが、自宅ではそうではないと介護者が常々口にしていた。

物忘れや認知症状の自覚がない為、「自分はしっかりしている。」「自分がボケているなんて戯言だ。」と繰り返していた。
こんな訴えは、比較的多くの方に見られるのだが
このケースを困難にさせている要因は至るところにあった。

まず、この利用者は出身地が同一圏内ではあるものの
他の土地から、婿養子に入った。
「この土地には知り合いがいない。」「自分はよそ者。」
という訴えの裏にあるものは、
「自分はこの辺の人間とは違う。別格だ。」というものである事は、その後の関わりの中で判った事だった。
そして、当時にしてみれば高学歴であり、一世一代で家も立て、家業も興したほどの人物である。
息子へは自分が望む結婚相手をと考えていたが
息子は学生時代に付き合っていた女性と結婚。
その嫁いで来た嫁に向かって、当時から
「お前は侵略者。」「お前は俺の家・財産をつけねらう泥棒。」
と言い続けた。
生まれた孫は、障害を抱えていた。
「俺の家系には障害などない。」「俺の家系に障害があってはいけない。」と、言い続け、その孫は大きくなるまでそう言われる事が当然で自分が悪いのだと思っていた。
その事が原因で、嫁は若くして精神障害を発症。
その病気についても、利用者は罵る。
そして息子にも、家業を継ぐための資格が取れない事を、さんざん責めて
「この家は俺がいないと何も出来ない。」「俺が大統領。」「指図は誰も出来ない。」

・・・・・コレが、この利用者一家の歴史である。


特に、生活全般の責任を持たされている嫁の精神症状は、出会ったときから相当悪く、早急な受診が必要だった。
併せて、認知症が進行し始まっている利用者に対しても、適切な支援が必要な状態だった。

だが、肝心の息子が動こうとしない。
「父は大丈夫。妻がキチガイなんだ。」
と、繰り返す。
なんとか、デイサービスの利用につなげ暫く様子を見ていた。

その間も、いろんな家族間の騒動がある。
家族間といっても、利用者 対 嫁 の図式である。
利用者は昔からの調子で、しかも認知症が進行していることもあり、さらに攻撃的言動を繰り返す。
嫁も、精神症状が悪化している事から、負けないくらいの暴言を吐く。

利用者・嫁
その2人を精神科受診につなげたのは、互いに包丁を振り翳してバトルした事がきっかけだった。
だが、利用者の受診は3回ばかりで、いつものかかりつけ医に戻ってしまった。

この段階でショートステイや施設利用について打診するが
息子の反応がいまいちで
何度アポをとって訪問するも、事務所から出てこようとしない事が多かった。


この春
被害妄想が原因で、ついにデイサービスも中止になってしまう。
何のサービスも利用しない中
利用者の生活は、どんどん不規則に、体力も低下し足の運びが悪く、尿便失禁にも気付かないほどになってしまう。
それでも、自分はしっかりしている。自分が大統領と繰り返す。


現状、このまま放っておく訳にはいかず、いつもは3人(息子・嫁・孫)一緒に話を聞いてくれる事などないのだが、無理やり同じ部屋に集まってもらう。

利用者の状態が悪化している事は、皆一致の見解だった。
実際、介護も出来ておらず、尿便もそのままの状態であった。
施設入所を勧めるが、言葉を濁される。
家業の関係で、資格所有者の利用者が入所などの理由により勤務実態がなくなってしまうと廃業しなくてはならないとの事。
であれば、長めのショートステイや何としてでもデイサービスへ行く事が出来るように、家族が固まって支援する必要があると話すが、
介護抵抗や暴言・暴行のため、困難に等しいと言う。
尿便垂れ流しの事実について、嫁は
「人間らしく尊厳を持って欲しいから、なんとか交換してもらいたい。洗濯の為に部屋に入らせて欲しい」と涙を流して訴えるが
「よく言う。この前トイレ汚されて、じいさんの事蹴っ飛ばしたじゃないか。」と、息子。
家族からのアドバイスに耳を傾けないばかりか、「俺がいなけりゃ、お前らはのたれ死んでいる。」との言葉に
先日、孫が利用者に飛び掛った・・・・・


家業を継続するために、代理の資格所有者を早急に探す事
要介護認定の変更申請を出す事
施設入所を検討できる状態になるまでは、家族が固まってデイサービスへ行く事が出来るよう利用者を支援する事
デイサービスが難しければ、せめてヘルパーによる衣類交換・洗濯・朝食の支援・・・・・等、勧めるがヘルパー利用一本では根本的な解決にはならない事。

これらを説明。


「この状況が続けば、寝たきりや認知症の進行は起きてきます。
 介護は誰か一人の負担では出来ません。
 このまま、在宅で頑張るつもりであるなら、家族みんなが同じ意識
 で、利用者へ関わってください。
 それでも、もともとのお持ちである性格や、家族の病気もあり
 いつかは必ず、在宅の限界は来ます。
 今が、もうその段階だと、私は思ってます。」


・・・・・私の介護道に反する事を言う。

・・・・・言わなきゃならない時がある。



本音の部分では、家族の意向は一致している。
でも、そこへ踏み込むには、ハードルがたくさんある。


支援困難や、介入困難・接近困難
いろんな事例がある。
このケースも、息子が今まで関わりを見せようとしなかったため
精神障害の嫁が、疾患のためまとまらない思考回路の中
ああでもない、こうでもないと奔走していた。
今回をきっかけに、キーパーソンは息子である事を再確認。了解。

世間体云々と言っている状況でない事も理解してもらった。

まずは今月、
再度デイサービスを午後だけ、時間減の2〜3時間で利用できるよう調整。
事業者にも踏ん張ってもらう事とした。


・・・・・おそらく、簡単にはいかない。
・・・・・利用には繋がらない結果が出るだろうと思われる。


支援困難なケースは、次から次へとやってくる。
この社会は、どうなっているのだろう
この社会は、どうなっていくのだろう

今後、増加すると思われる
困難ケース・虐待ケース・経済的困難ケース・独居高齢夫婦世帯


利用したくても出来ないものは
サービスだけではない。
低所得者では、後見人や地権の利用も難しい。
報酬を払う余裕がないのだ。

諸問題は埋もれたまま、介護申請すらなされていないケースもある。


とにかく、なんとか前へ進むことが出来るように
頑張って動こうと思う。




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posted by 木下 小櫻 at 01:11 | Comment(2) | 認知症

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