2008年08月05日

憎しみを超えたもの

介護・福祉・医療の世界にいて
いろんな介護や家族の姿を知る。

家族や介護は、すべて上手くいくなんて事はあまりない。
この仕事をしていて、この発言はどうかとも思うが
介護はきれい事ではない。

専門職は、職業倫理や人権を守るため
人としての価値観が問われる。
もちろん、利用者の権利を最大限守らなくてはならない。

でも、これは専門職だから。
もし、私たちが自分の家族に四六時中同じ気持ちでケアを行えるかどうか?
これは、絶対的にイエスと答えられない。

家族は切っても切れない存在であり
家族は複雑だ。

いかんともしがたい介護者も存在する中
介護の中で、家族だからこその苦悩を抱える人々
愛が形を変えるもの
家族への想いが、プツッと切れるもの
これまでの家族の歴史を知るにつれ困難さが判ってしまうもの
もともと希薄なもの

抱えてきたものは、なかなか変わらない。


以前、いわゆる虐待事例と関わった。
近所中に響き渡る、介護者の利用者への罵声。
とても適切とは言えない介護。
利用者も介護者も、髪を振り乱し
家庭内は荒れていた。
関係者が足を踏み入れても、態度が一瞬でも変わることなく
とにかく双方の苦痛だけが、そこにあった。

利用者は、鬼姑だったらしい。
介護者である嫁は、相当ないじめに耐えてきた。
利用者は認知症を発症し、想像できるだけの経過を辿り
その間の、家族の介護疲労は相当なものだった。
ただでさえ介護疲労を伴うのに、もともとの関係性が悪化の一途を加速させる。
明らかに、在宅で暮らすより分離したほうがお互いのためのように思えた。

でも、施設意向はなかった。

ある時、嫁は行動に出た。
家の中は、壁や天井、ドア、テーブル、床
もとある家の様相が見えないほどの紙が家中に張られた。
「スマイル!」
「笑顔!」
「楽しい!」
ポジティブな言葉が乱立していた。

嫁は苦しんでいた。
さんざん苛め抜かれてきた姑を憎んでいた。
その姑が認知症を発症し、今度は自分が苛めている。
自分の姿は、まるで鬼だった。

いろんな思いが渦巻くその家は空気の流れが重かった。

嫁は、自分なりにかなりの努力をしていた。
自分に言い聞かせ、嘘をつき。

利用者の症状は更に進行し
疎通さえも難しくなってきた。
鬼姑と呼ばれた姿も、
不穏から来る介護抵抗も
不安から来る暴言・暴行も
何もなくなって、いつしかお人形を抱き、いつもニコニコしている可愛いばあちゃんになっていった。

嫁は、何かを乗り越えたかのように
介護団体への講演や、諸団体への活動に参加するようになった。
もちろん、これまでの介護経験を活かし
他の介護者へのメッセージを発信する役割を持って。


でも、それでも、何かが異様だった。

周りは、いろんな介護困難を乗り越え素晴らしいと口々に言ったが
私は、なんとなく受容できなかった。
この仕事において、受容できないとはどういう事か位は解っている。
でも、気持ちが、飲み込めていなかった。

ニコニコして、お人形を抱いている利用者は
まるで自分も子供に返っている様だった。
何を話されても「うん!」と答える。
それが、人権尊重を無視した質問であっても、
それが、性的な質問であっても、
すべてに「うん!」と答える。

「あらぁ〜、うんこ出ちゃいまちたねぇ〜。」
「みんなの前で、お尻出しちゃいましょうねぇ〜。」
「先生(医者)に、おっぱい触って(診察)もらいまちた〜。」

「可愛くなっちゃって〜!」
嫁は姑に頬ずりする。


以前のような、凄惨な虐待現場ではなく
執拗なまでの自宅の張り紙もなくなった。
講演会がある時は、ショートステイも利用した。

しかし、そこにあるのは
姑を介護する嫁ではなかった。

必ず「イエス」と答える何かを
面白く介護している姿。
家族が楽しく過ごしているのではない。

面白、可笑しく、介護している
・・・・・そんな風にしか、見えなかった。


憎しみしかなかった、その家族に生まれたもの。

愛とか、慈悲とか・・・・・諦めとか
そういうモノでもなかった。

姿は変われど、憎しみなのか・・・・・



家族が家族として生き続ける為に
私たちがやらなくてはならない支援は、たくさんあり
おそらく、直接利用者へ関わる力より
もっと、エネルギーを必要とするかもしれない。


人であり
人格を持った固有の存在であり
いちばん身近な小集団である家族の一員として
その人が生きていく事が出来るように支援する。


きれい事ではない介護を
そういったものを、いかに大事にしてもらうか。



難しい事を、投げ出しちゃいけない仕事だと思っている。





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時々、読んで下さっている愛すべき皆様へ。

いつも、お世話になっています。
こんな、つたないblogをご覧になっていただきありがとうございます。
ここのところ、更新が途絶えがちですが特に変わりはございません。
やりたい事がたくさんあって、手が回っていないだけです。
まるで生き急ぐように、あれこれチャレンジしております。
たぶん、心身ともに融通が利くのは、もう後なかなかないかなぁ・・・・・なんて思ってます。


もともと無理しがちなタイプの人間です。
もっと、自分を追い込む予定でおります。


今後とも、よろしくお願い致します。

      Kosakura Kinoshita




posted by 木下 小櫻 at 01:58 | Comment(0) | 認知症

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