2008年04月26日

「主人の思いを遂げさせて」

前回に引き続き、印象の強い利用者さんです。
どんな方でもそうなのですが、この方は特に“どうすべきだったのか”という点において悩み続けているケースです。


「今すぐ一緒に行って」
包括職員が帰ってくるなり私に言いました。
民生委員経由で情報が上がってきたケースで、今から介護保険新規申請だとの事でした。
緊急性が高いのかな?
そんな事を思いながら、車を走らせました。

るいそう著明・褥創・低栄養・脱水・それに伴う言動の不安定さ・全身機能の著しい低下

一目見て、そう思いました。
ご自宅は豪邸でおしゃれなログハウス。金銭的に余裕のある利用者夫婦と同じく実業家を経て経済面の心配のない息子。
物静かで穏やかな、妻と息子。
介護方法に精通しているわけではありませんが、介護放棄という印象はまったくない。
疾患名は老衰・脱水。特に大きな既往歴・現病歴はありません。検査データも低栄養の部分だけで、他目立った所見がない。

「何もしてくれるな。」
彼はゆっくり、でもしっかり言います。
「脱水と栄養状態を改善できれば、もう少し穏やかに暮らせると思います。あと、腰、痛いですね?」
彼は、ゆっくり首を横に振ります。
「痛いけど、いいんだ。私の試練だ。」
例えば、がん末期や進行性の難病・治癒困難な状態ではない。
「・・・・・どうして?」
そう聞く私に、彼は話し始めた。
「思い描いた老後ではなかった。堕ちた私を誰にも見られたくはない。この部屋だけでいいのだ。誰も来なくていい。」
「妻にだけは迷惑を掛けたくない。下の世話というのは、私のプライドが許さない。妻も大変だ。だから自分で考える。飲まなければ、小便など出ない。出たとしても少量だ。自分で妻の手を煩わせないようコントロールすればいいのだ。」
「身体は、あなたの言うように切ない。痛い。でも、ここで医療に手を差し伸べてもらっては、妻が私の世話をしなくてはいけない時間が延長されるだけだ。自分の信念を曲げない意志だけは、最期まで保ちたい。」


・・・・・嘘・・・・・

こんなの、私に容認できるのか?


家族と話す。
「主人の思いを遂げさせてあげてください。望みはそれだけです。」
「父は、死にたがっているんですよ。それでいいんです。」


・・・・・私は利用者自身に「分かった」と伝え
「でも、私はマメに伺います。来るなと言われても来ます。いいですか?」
彼は縦に首を振った。
「あと、せめて痛みや切ないのだけはちょっとでもなくなるような、準備はします。」



福祉用具貸与・訪問看護・訪問介護の手配をし、その足で主治医の所へ伺う。
「う〜ん、まぁ、いいんじゃないの?死にたいって言っているんだから。」
「・・・・・でも。」
「いいのいいの。」


夜間せん妄にて幻覚や大声があり、妻の体力は限界だった。
少しでも妻の負担を軽くしたいと思い訪問介護をと考えたが、これも利用者・妻ともに拒否。
「もう間もないんだから、頑張れるわ。」
「少しでも、状態の改善が出来れば、すこし楽に暮らせると思うのですが?」
そんな私の言葉に、やっぱり頑なな返事が返ってくる。


きっかけは
もともと暮らしていた、今よりも大きな土地が道路拡張の整備に当たってしまった事から始まったらしい。
今住んでいるところは、今までの居住地からほんの少ししか離れていないので、馴染みの関係がなくなった訳でもない。

ただ、由緒ある家柄で代々続いたものが、自分の代で途切れた。
自分はそこの主で、その後に続く思い描いていた暮らしが寸断された事。
希望や夢の寸断。
それは人生において、非常に大きな節目だ。

価値観の違いという言葉で済ますつもりはないが、
それでも、自身の身体をここまで追い詰めた。
そして、間もなく幕引きをしようというところまで来ている。
・・・・・私に受容できることではなかった。


「ごめんなさいね。こんな依頼して。」
「いよいよっていう時。きっとあなたなら分かるでしょう?それを教えてもらう為に、時々来てちょうだい。」


利用者本位・・・・・利用者の願いを共に支え、一緒に進んで行く事。
本人の意思決定において、悪い方向へ向かっていっていると分かっていても、その意思・行為を支える・・・・・
もちろん、そういった事もこの福祉の世界ではある。

しかし、そればかり優先されていては福祉がある意味さえ分からなくなってしまう。
難しい事だし、非常に悩ましい。

そして、彼の場合、明らかに改善できる方法があるのに
例えば、これ以上はどうにもならないとか
病状的に、改善は見込めないとか
・・・・・そういう事ではなく、彼自身も家族もそれだって分かっているのに。


でも、思いを遂げさせて・・・・・



・・・・・どうしても分からなかった。




間もなくして、彼は他界した。

亡くなる前日、妻は生霊をみたという。
「俺、歩けた。」
妻の寝室に彼はやってきて、そう言ったと言う。
「あら、あなた良かったわね・・・・・そう言ったのよ、私。」
妻の顔からは、安堵が伺えた。



どうして何も変えられなかったのか?
どうして彼らの望みをそのまま飲み込んだのか?
どうして強制的にでも治療をさせなかったのか?
どうして分かっていて何も出来なかったのか?



どうして・どうして・どうして・どうして


頭の中は、それがいっぱい。

ちっちゃな私の気持ちには
どこかで「思い出したくない」という声もあって
でも、風化させちゃいけない気持ちが大きくでる。

何度考えても、どうすべきだったのか
どう思い返しても、私のした事は間違いだったとしか思えない。


こんな結果なのに
どうして「ありがとう」って言うの?

考えなきゃと思う私
考えたらヤバイと思う私。


もう少し、私に支援の何かがあれば変わったのか?
やっぱり同じ結果だったのか?

自問自答を繰り返す。




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posted by 木下 小櫻 at 18:48 | Comment(8) | 介護支援専門員

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